130年企業の挑戦、事故や病気を「起こさせない」デジタル戦略

車に搭載されたセンサーが運転の危険度をリアルタイムで監視し、スマートウォッチが健康状態の異変を事前に察知する。IoTやAI技術の進化により、これまで「起きてから対処」していたトラブルが、「起きる前に予防」できるようになってきた。
この予防型テクノロジーは、保険業界のビジネスモデルを根底から変えようとしている。損害保険を中核事業として130年以上の歴史を持つ老舗・SOMPOグループも例外ではない。
事故後に保険金を支払うビジネスから、事故や病気を未然に防ぐビジネスへの転換を目指し、ビジネスドメインを「保険」から「安心・安全・健康」に拡張した。
予防型ビジネスへの転換を支えるDX専門組織の構築と、そこで求められる人材像について、変革を担う2人のCDOに聞いた。

公開

2025年12月18日

この記事は、SOMPOホールディングスのスポンサードによってNewsPicks Brand Designが制作した、NewsPicks掲載記事(2025年10月17日公開)を転載したものです。

Interviewees

木村将之

SOMPOホールディングス グループCo-CDO/執行役員常務

2007年有限責任監査法人トーマツ入社。2010年よりデロイト トーマツ ベンチャーサポートの第2創業に参画、2015年にシリコンバレー事務所を開設し、世界5拠点260名への拡大をCOOとして牽引。多数の日系企業のデジタル・サービストランスフォーメーションを支援。同社 COO/パートナー、Deloitte Private Asia Pacific、 Emerging Growth Leader などを歴任。
2025年6月SOMPOホールディングス株式会社 グループCDO執行役員常務に就任。豊富な実績とグローバルで強固なネットワークを生かし、グループのデジタル・データ・AI推進を牽引。

中島正朝

損保ジャパンCDO/リテールビジネスCOO/DX推進部長(兼 SOMPOホールディングス デジタル・データ戦略部長)

1989年安田火災(現損害保険ジャパン)に入社。ダイレクトWEB保険開発やセゾン自動車でのダイレクト事業立ち上げを主導するなど、デジタル事業黎明期から貢献。
2014年以降は損保ジャパンでデジタル戦略立案、2016年SOMPOホールディングスデジタル戦略部長としてグループ全体のデジタル戦略を牽引。2023 年にはSOMPO Light Vortex社長を兼務し、デジタル事業の立ち上げ・拡大も推進。2024 年、損害保険ジャパン執行役員 CDOに就任。2025 年からはリテールビジネスCOOを兼務し、グループ全体のDX及びデジタル・データ・AI戦略を加速。

データの力で事故、病気を防ぐ

──昨今、データ分析やAI技術の進化が各産業に影響を与えていますが、保険業界ではどのような変化が起きているのでしょうか。

中島 私は損保ジャパンでCDOとリテールビジネスCOOを兼務し、グループ全体のデジタル・データ戦略も担当しています。

ここ数年のテクノロジーの変化によって、保険業界は大きな転換点を迎えています。保険会社はもともとデータビジネスで、過去の膨大な事故データや災害データを統計的に分析して保険料を算出し、保険金をお支払いしてきました。

しかし現在、IoTやセンサー技術の普及により、車の運転パターン、気象状況、人の健康状態まで、リアルタイムで計測できるようになりました。これにより、データを活用してリスクを予測し、事故、災害、病気といったアクシデントを「起きる前に防ぐ」ことが可能になりつつあります。

木村 私は前職で「SOMPO Digital Lab」のシリコンバレー設立を含め約10年SOMPOグループのデジタル推進に関与していました。非常にイノベーティブな社風に惹かれ今年の6月からグループのCo-CDOとして参画し、全社横断的なデジタル戦略を推進しています。

AIはもちろんですが、AIを下支えするIoTやセンサー技術の普及といったデータ環境の変化により、従来の「アクシデントが起きてから、保険金を払う」というビジネスから、データを活用した「事故や災害そのものを防ぐ」というビジネスへの転換を推進しています。

中島 事故や災害が減れば契約者にとってリスク回避や保険料の引き下げというメリットがありますし、保険会社としても保険金の支払いを減らすことができます。

データ分析の高度化やAI技術の進化により、保険会社としてどのようなサービスを作り、どのような価値を社会に提供していくのかが、今まさに問われていると考えています。

また、SOMPOグループの主要事業である保険事業は、人口動態と深く連動しているため、少子高齢化が進む社会において従来のビジネスモデルではいずれ限界がくるのは明らかです。こうした危機感のもと、2016年にデジタル技術やデータの活用を加速させるための専門組織「SOMPO Digital Lab」を立ち上げました。

設立以来、SOMPO Digital Labでは、SOMPOグループ全体でのデジタル・データ・AI活用の推進に加え、新しい価値・サービスを社会に提供するための新規事業開発を進めています。

データやAIを駆使して、業務効率化を図りつつ、より付加価値の高い業務に集中して新たな顧客体験を生み出していく。従来の保険事業の枠にとどまらない、さまざまな領域で事業が拡大しているところです。

将来的には「保険に頼らなくても安心・安全・健康に暮らせる社会」の実現を目指しています。

木村 逆説的とも言えるこの発想の転換は、実は当社のDNAに根ざしています。

130年前に日本初の火災保険会社として創業した当時、社員は皆ハッピを着て消防団として火事が起きないよう街を見回る活動もしていたんです。

「予防」は保険会社の原点でもある。データやAIという新しい技術によって、この理念を実現できる環境になりつつあります。

──保険会社がデータを活用することで、具体的にどのようなサービスが生まれたのでしょうか。

中島 事故を減らす取り組みとして、運輸業などの法人・個人事業主向けに「スマイリングロード」という安全運転支援サービスを提供しています。

事業者にドライブレコーダーや専用アプリを提供し、単に録画するだけでなく、ドライバーの運転状況をリアルタイムで記録・分析して安全運転を支援するサービスです。最新の位置情報や走行履歴、運転診断結果を管理者へ通知することで、事故の予防につなげています。

導入実績は4,615社、導入台数は累計で15万台を突破し、導入前に比べて事故が最大約3割減少したという効果も出ています。

木村:健康・ヘルスケアの面では、介護事業を展開するSOMPOケアが、データを活用した介護施設向けサービスを提供しています。

マットレスの下にシート状の睡眠測定センサーを敷き、入居者の睡眠データを取得。それを解析することで、各々の生活リズムに合わせた最適なケアプランを導き出すものです。

介護の現場は人手不足の問題が深刻ですが、「見守り」業務の一部にデータやAIを活用することで、一人ひとりに合ったきめ細かい介護ケアを実現できます。

SOMPOがシリコンバレーに学んだこと

──SOMPO Digital Labが新しいビジネス開発を切り開く部署として、活躍しているのですね。

中島 今でこそ200人の組織に成長しましたが、SOMPO Digital Labは、保険業しか経験したことが無い5人のチームから始まりました。グループ内のDX推進を目的としてトップダウンで創設されましたが、最初は試行錯誤の連続でした。

 SOMPO Digital Labの大きな原動力となってきたのは、人材の多様性です。キャリア採用者が全体の7割を占めており、前職が保険会社であった方はごくわずかです。

 大手テック企業、コンサルティングファーム、SIer、スタートアップなど、多様なバックグラウンドを持つエンジニアやデザイナー、データスペシャリストが集まっています。

 こうした多様な人材が共有しているのが、ユーザーファーストの思考です。

 当初は失敗を恐れる風潮もありましたが、トップ自らが「PoCは10打席10ヒットじゃない」と理解を示し、先行投資として失敗を許容する社内風土を作りました。その上で、会社による積極的な投資のもと、ビジネス部門が失敗を恐れずに挑戦できる環境を整えています。

木村 最新技術を導入する際も、それ自体が目的ではなく、現場で誰が使うのか、本当に課題を解決できているのかを常に「ユーザーファースト」で問い続けています。

 この考え方は、2016年に東京に加えシリコンバレーにSOMPO Digital Labの拠点を設立した際に学んだものです。現地では、ユーザーの課題を起点に考えるデザイン思考が当たり前の共通言語として浸透していました。この学びをグループ全体にも取り入れています。

 開発手法に関してもアジャイル型を徹底しています。従来のウォーターフォール型では、ビジネス部門が要件定義を作って、それに基づいてシステム部門が開発するという分業制でした。

 しかし私たちは、ビジネス部門がプロダクトオーナーとなり、エンジニアやデザイナー、データスペシャリストと一緒にワンチームで開発を進めます。お客様に試してもらい、フィードバックを受けながら改善を重ね、価値創造を進めています。

中島 この「お客様目線」の重要性を痛感したのが、2023年に発覚した中古車販売店による保険金不正請求問題でした。同社が事故にあったお客様の車に新たな傷をつけるなど、保険金を不正に水増し請求していた問題です。

 当社は事故対応の際、当社の保険代理店でもある同社を提携修理工場として案内していた時期があり、結果としてお客様の不信を招いてしまったと深く反省しています。この問題の根底には「お客様目線の欠如」がありました。

 この事件を受け、事業部門とデジタル部門が一体となって保険金サービスをイチから見直す改革プロジェクトを立ち上げました。外部から来たメンバーが「お客様はそう思わないのでは?」と率直に指摘できる関係が、真の改革につながっていると考えています。

──最終的には「デジタル部門を解消する」ことが目標だとお聞きしましたが、どういう意味でしょうか。

中島 デジタル部門が独立して存在しているというのは異常なんですよね。シリコンバレーにいるグーグルやセールスフォースには、そもそも「デジタル部門」なんてありません。

 理想は、どの部署も「デジタル部門」と言える体制です。組織内にデジタルに特化した部門があるという体制は解消されるべきだと考えています。

 どの部門にもエンジニアやデザイナー、データスペシャリストがいて、会社全体に当たり前のようにデジタルが浸透している。それを私たちは『Digital as Usual(デジタルが当たり前にある状態)』と呼んでいます。

木村 デジタル部門があることでナレッジがたまったり、横のつながりの中で知見を高められたりというメリットはあります。

 一方で、働き方や会社としての常識という観点でデジタルが溶け込んでいる状態にするため、プロジェクトの立ち上げ時からデジタル部門の人材とビジネス部門の人材がワンチームとなり、協働してプロジェクトを推進する体制をとっています。

 最終的には、デジタル人材が各部署でアジャイル開発に従事する、デジタル・AI先進企業になっていくことがゴールです。

次の時代に求められる「T字型人材」

──エンジニアが保険業界で活躍するというのは、イメージしづらいかもしれません。

中島 確かにそう思われるかもしれませんが、実際には多様な業界から転職してきた方々が活躍しています。

 私たちが求めているのは「T字型人材」です。特定分野の専門性と、チーム内外の関係者と柔軟に協働できる能力、その双方を兼ね備えた人材が不可欠だと考えています。

 縦軸として、エンジニアならプログラミング、デザイナーならUI/UXといった専門的スキルをしっかり持つ。

 同時に横軸として、ビジネス理解や顧客視点を積極的に学ぶ姿勢のある人材ですね。単に技術だけに閉じこもるのではなく、「なぜこの機能が必要なのか」「お客様にとってどんな価値があるのか」を常に考えられる人材です。

中島 これまで当社に転職してきた方の多くは、受託開発での限界を感じていた方です。請け負いでのアジャイル開発では、クライアントの要求に従わざるをえず、企画そのものやシステムの改良まで主体的に関わることができません。

 SOMPOグループでは企画から実装・改善までをチームの一員となって携われるのが大きな魅力です。

 決められた業務をこなすのではなく、自身の専門スキルを横展開していける環境がSOMPOにはあります。事業領域も保険に限らず、介護や健康促進領域まで幅広く、「安心・安全・健康」を軸に多様な事業に関われる点もユニークであり、当社で働く魅力だと自負しています。

木村 個人のキャリア形成の観点で言えば、多様な人材と一緒に働けて、そこでの技術・知見の共有もオープンに行われている点も魅力だと思います。例えば、現在はデータ専門職であっても、データ分析だけでなく、それをAIでどう実装するかまで考える必要があります。

 そうした専門領域外も含めた技術の全体像を把握し、ワンチームで取り組める環境は、個人のキャリアとしても、組織の成長においても重要だと考えています。

 AIが担当できる領域はAIに任せ、人間は人間にしかできない価値創造に集中する。保険業界の枠を超えて、高齢化社会の日本が抱える課題解決の最前線で、技術からビジネスまで幅広いスキルを身につけながら働くことが可能です。

 技術で社会を変えたい、全く新しい体験を作っていきたいと考える方には、これ以上ない環境だと思います。ぜひチャレンジしてほしいですね。

制作:NewsPicks Brand Design
執筆:佐藤隼秀
編集:金子祐輔
撮影:小池大介
デザイン:石丸恵理